九州でのお通夜の晩、夫が優大のそばに、私は斎場の控え室に布団を敷いて一人で横になった。

ずっとまともに眠ることができなかったけれど、その夜、私は本当にすっと眠りに落ちていた。

とてつもない疲れの中でも、私は優大に優しく抱きしめられているような安心感を覚えていた。

優大は身体を離れて自由になったのだ。

それがありありと感じられた。

葬儀の時、私はとても静かな寂しさを感じていたけれど、「悲しい」という感情が優大の最期にはふさわしくないような、そんな気がしていた。

夫と二人で火葬場の空、優大の煙が昇っていく先を眺めていると、雲間から眩しい光が差した。

夫と顔を見合わせ、その光に心が暖められるのを感じて思わず笑顔になった。

サインはそうやって何度も何度も送られてきた。

やがて私は、優大がメッセージを言葉ではっきり伝えてくれることを知った。

それは優大が亡くなる数日前
「ぼくはだいじょうぶ。ママ大好きだよ」
と伝えてくれたあの時から始まっていたのだ。

私と優大は一心同体で生きてきた。

もちろん身体は別々だけど魂は一つとも言えるように寄り添って生きてきた。

それは私と優大が生まれる前から選んでいた人生、10年間だったのだろうと今は思っている。

 

葬儀も終わり日常が戻ると心に隠れていたどうしようもない悲しみがあふれてきた。

一人になると涙があふれて涙が涸れるまで泣いた日。

優大がいないことが苦しくて苦しくて、大声で叫びだしそうになった日。

東京に戻り余りの寂しさにいっそのこと消えてしまいたいとマンションのベランダから下を覗いた日。

どうしようもない空っぽな心を抱えて、どこにも進めないと途方に暮れた日。

1年が経っても、何度も、何度も、名前を呼んで、会いたくて泣いた日。

けれど、優大が旅立ってからの、私のどんな悲しみのときにも、絶望してしまうということはなかった。

泣いた後に、優大に話しかけるといつでも

「ママ、それでいいよ。そのままでいいよ。」

と応え続けてくれた。

すると心に暖かい光が差し、私はまた優大の力強い愛を感じるのだった。

日に日に、優大が旅立ったことの悲しみよりも生きたことへの感謝が溢れてくるようになった。

半年後に授かったお腹の中の新しい命とともに、私たちは鎌倉へと引っ越した。

私は一人で海を見ながら毎日涙を流しては、悲しみも少しずつ流して行った。

人前では平気な顔でいても本当は、揺れながら何度も振り返りながら歩んできた。

弱くて小さくて泣き虫の私。

優大と海と空が「それでいいよ」と言ってくれたから私はわたしでいられた。

そばにいてくれる家族が笑っていてくれたから私も笑っていられた。

たくさんの人から数えきれないほどの励ましと優しさをもらったから、いつも感謝とともに歩んでこられた。

優大にもらったバトンをギュッと強く強く握りしめて踏ん張ってきた私。

必死にわたしの生きる道を探してきた4年間の日々があった。

こうして優大の物語を綴り終えた今。

私は不思議と、その握った手の力を、踏ん張った足の力をふっとゆるめてここにいる。

今というこの瞬間にわたしはもう最高に幸せで喜びに満ちて生きている。

そう思えるから。

私にとってこのわたしという命に生まれたこと、優大を授かったこと、そして優大と生きて優大を見送ったことの、どの瞬間も贈り物であったと、そう思えるから。

今のわたし以上に愛の詰まったわたしはどこにもいない。

これからも私の命を生きるというその愛の贈り物がひとつひとつ
増えていくのだ。

贈られたすべての愛とともに私は生きる。

「ママ輝いて生きて!」

優大が私に語りかける声に私は応え続ける。

いつかまた優大に会えた時に

「ママはママの命を生きたよ!」

そう胸を張って言えるように。

 

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優大とわたしたちの10年間の物語 目次

About Stories 「物語の前に」

Story1
妻編:「赤ちゃんにノウガナイ?」
夫編:「幸せな若夫婦への突然の報せ」

Story2
妻編:「悲しみと隣りあわせの幸せ」
夫編:「試練、負けるもんか」

Story3
妻編:「この腕に抱きたい」誕生へ
夫編:「産むのはおかしいことですか?」

Story4
妻編:「天からの贈り物」
夫編:「想像できなかった現実」

Story5
妻編:「発作との日々の始まり」
夫編:「いざ広州へ」

Story6
妻編:「中国で重度障がい児を育てる」
夫編:「いよいよ!家族揃っての駐在生活。。」

Story7
妻編:「必死だった日々も。。」
夫編:「妻任せの障がい児子育て」

Story8
妻編:「これでいい。だいじょうぶ。」
夫編:「なかよし学級で教えてもらったこと」

Story9
妻編:「失うことの恐怖。。希望へ」
夫編:「生後5年目、初めての介護育児」

Story 10
妻編:「優大チームの介護子育て」
夫編:「優大5歳、お兄ちゃんになる」

Story 11
妻編:「生きていることの奇跡」
夫編:「8歳の試練」

Story 12
妻編:「当たり前でない日々、10年」
夫編:「命は必ず尽きる、ライフワークは何か?」

Story 13
妻編:「命の最期のしごと 前編」
夫編:「そして、九州へ」

Story 14
妻編:「命の最期のしごと 後編」
夫編:「命日と誕生日、優大の旅立ち」

Story 15
妻編:「すべてが贈り物」
夫編:「3人家族、新しい生活」

Last story
妻編:「生きて!」ママへ、そしてかけがえのないあなたへのメッセージ
夫編:「4人で5人家族、優大学校からの学び」